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強さと想いと シャワーを浴びて部屋に戻ったネロは、テーブルの上に置かれていた銃に、 キリエの手が触れているのを見て顔をしかめた。 ネロとともに任務から戻ったそれに、銃弾は収められてはいなかったけれど。 ネロは足早に彼女のもとまで近付くと、その腕からブルーローズを離した。 奪い取るような仕種にキリエは少し驚いた様子を見せて、ごめんなさい、と一言。 「ネロの、大切な仕事道具だものね」 「いや、そうじゃない」 ・・そうじゃなくて。 こんなものは、似合わないと思ったからだ。――彼女の腕には。 けっして、武器に愛着があって、他の人間に触らせたくないから、とか そんな大層な感情は、持ち合わせていない。 「見たって、そう面白いもんじゃないさ」 「ごめんなさい、勝手に・・」 キリエは、ひどく申し訳なさそうに。ネロは銃をホルダーに仕舞い、 いつものように足に取り付ける。 キリエの謝罪はネロにとって見当違いだ。 それを示すように、ゆるく首をふった。 「君には触ってほしくないんだ」 ネロにとってのキリエは、自分をいつでもあたたかく迎えてくれる、 心のよりどころのような存在だ。そんな彼女に、たくさんの悪魔を葬ってきた 血生臭いものを、近寄らせたくはない。 彼女を、汚してしまうような気がしたから。 「・・でも、ネロをいつも助けてくれているものでしょう?」 「助けるだって?」 ネロはキリエの言葉を反芻して、おもわず自嘲気味に笑う。 「こんなのは、ただの殺しの道具さ」 「それでも。・・私よりずっと、役に立つものだわ」 茶化すような声音に、キリエは真摯な声と眼差しで応えた。 ネロは戸惑う。 「どうして・・そんなこと、言うんだ?」 ふいに、キリエの表情がくしゃりと歪む。 泣きそうだ。 そう思ったが、彼女は涙をこぼすことはせずに、ネロの腕を優しく とると、そっと撫ぜた。 「私ができるのは、心配すること。・・ただ、それだけ」 彼女が触れる指先に、まだ治りきらない傷跡を隠すように包帯が巻かれている。 先日、任務中に負った傷だった。 単独行動を選り好むせいで、危ない仕事を回されることは多い。 生傷の絶えない生活。 しかし、それも教団騎士であるネロには、仕方のないことだった。 むしろ騎士達の間には、任務で負った怪我は己の勲章だと誇る者もいるくらいで。 それにネロが賛同するかどうかは、別の話しとして。 悪魔を相手にする仕事をしていて、怪我ひとつ負わないというのは 無理なはなしだ。 「いつも守られてばかりで、ネロばっかりこんな・・」 さすっていた腕が、止まる。今度こそ、泣いてしまうのではないかと、思って。 ネロは、怪我をしている方とは反対側の手を、彼女の頬に添えた。 「俺は、こんなことくらいでしか、返せないからな」 キリエがネロを見上げた。目尻に、光るものが見える。 それをそっと拭ってやる。 「俺は悪魔を倒すことしかできないけど、キリエにはもっと、 いろんなことができるじゃないか」 「・・いろんな、こと?」 「うん。料理とか、洗濯とか、・・いろいろさ」 「そんなの、」 キリエは、気の抜けた声で呟く。 「"できる"リストにすら、入らないわ」 「・・でも、俺にはできないよ」 料理も洗濯も、悪魔なんかより、よほど手強い相手だから。 キリエは肩の力が抜けた様子で、ネロの手に寄り添うように、首を傾げる。 「そんなことしか、できないのよ?」 「それ以上望むのは、欲張りってやつさ」 ネロはきっぱり言う。それから悪戯に、ニヤリと笑って。 「ああ・・でも、キリエにしかできないことも、あるかな」 「私に、だけ?」 それはいったいなに?と自分を見上げてくる彼女に、ネロは顔を近付けて、 唇を、重ねた。軽く触れるだけで、すぐに顔を離すと、キリエの キョトンとした顔が目に入る。 「キス、とか?」 そう言った途端、彼女の顔が、真っ赤に染まった。 待っていてくれるだけで、十分だから。 力だけで守れるものなんて、きっと限られている。 無事を祈って、帰りを待っていてくれること。 それがネロにとって、一番の力になるのだということを、 キリエはまだ、知らない。 ブラウザバックでお戻り下さい。 |