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交わした約束 目の前が、赤く染まる。 その瞬間、自分が自分じゃなくなったみたいに。 目に映る全てのものを、破壊したい衝動を抑え切れなくなる。 自分にできないことは、何ひとつ無いような、愚かな驕り。 それでも、まだ、満足できない。 力だ。力が、欲しい。 もっと。 これっぽっちじゃ、全然、足りない。 ダンテは悪魔の血で汚れたリベリオンをふりはらった。 飛び散った黒い染みが、地面に点々と跡をつける。 深い森の奥、じめじめとした空気。月は雲の向こうに隠れ、どんよりとした 暗さがあたりを覆っている。当然、まわりに民家などある筈もなく、 人が入った形跡すらない。閉ざされた森、とでもいうべきか。 いかにも、悪魔が好みそうな場所だ。 ダンテは、背後にいるネロの方を振り返った。 暗いとはいっても、完全な闇ではない。すぐ傍で立ち尽くしている彼の表情が、 どこか苦々し気に歪んでいることくらいは、夜目にも分かる。 しかし、何故かといったその理由まではダンテに分かる筈もなく。 見たところ、怪我をした様子もない。 とっとと仕事を終わらせて、シャワーでも浴びたいというのが ダンテの今の気分ではあったものの、立ち尽くすネロには、軽く声を かけてしまうのを、少々躊躇するくらいの深刻さがあった。 しかし、このままここでこうしているワケにもいかない。 「ここらで少し、休憩でもしていくか?」 そんなダンテの提案には答えずに。 「――俺も、コイツ等と、同じだ」 ぽつりとネロが呟いた。 「・・・なんだって?」 「あんただって、そうだろ」 そうして、陰りを帯びた視線に、見抜かれて。 ダンテは少し黙る。その葛藤は、自分自身にも覚えがあった。しかし、 「同じじゃないだろ」 「・・どうして、言い切れる?」 「悪魔は、誰かを守るために戦ったりはしないからさ」 簡単なことだろ?とダンテが言うと、ネロは自らの体で右腕を隠した。 「・・分からない」 「悪魔か人間か、なんてのは、見てくれだけで判断できることじゃない」 ダンテの父であるスパーダは、悪魔でありながら、人を愛することを選んだ。 確かに彼は、悪魔と呼ばれる存在だったかもしれない。 しかし、ダンテは父を、悪魔だとは思わない。 その心が、悪魔ではなかったからだ。 逆に、人間が、悪魔になることだって、ある。 姿形は変えずとも、心さえ失くしてしまえば。 そうやって、線引きをすること自体が、間違っていたのだ。 でも、人間と悪魔と、どちらにも属することがないからこそ。 ・・いや、そのどちらでもあるからこそ、ネロが悩む気持ちは、 ダンテにも理解できた。まるで、昔の自分を見ているようだと思った。 「ときどき、どうしようもなくなる」 ネロは、右腕の拳を強く握った。 「何も、考えられなくなる。ただ、こう思うんだ」 体の奥底から、低いうなり声のようなものが聞こえて。 すぐにそれが、自分の声だと気付く。自分ですら、聞いたことのないような、 まるで悪魔のような声が。 「力が欲しい、もっと。力を――って」 そうなるともう、"守る"なんてことはただの口実だ。 目の前にいる敵を、本能のように倒す自分がいる。 ネロは、目を伏せた。その視界にダンテのブーツが映る。 背中に隠していた右腕をとられた。 「・・離せ」 「嫌だと思うなら、振り払えばいいだろう」 この腕が、どんものかも知らない癖に。 ネロは、忌々しい気持ちでダンテを見上げた。 余裕たっぷりな顔、・・そして、ひどく優し気な。それが余計、腹立たしい。 「大人しく払われてやるほど、ヤワじゃないけどな」 それは、いつものように子供扱いするようなものではなくて。 力に翻弄されるネロを、落ち着かせるような言い方だった。 「――でも、そうだな。・・もし、お前が、悪魔に魂を売り渡すようなことを しそうになったなら、俺が、なんとかしてやるさ」 「・・・なんとかって、なんだよ」 あまりに漠然とした物言いに、ネロは思わず力が抜けるのを感じて。 「止めて、みせる」 今度はハッキリと、ダンテはまっすぐに見つめながら言った。 からかいの色が消え、真剣なその眼差しに、ネロは少し居心地が悪くなる。 つかまれた手が、くすぐったい。 「そのかわり、俺が"そうなった"ときは、お前に、よろしく頼むよ」 もしも、道を踏み外しそうになったら。 お互いで、止めてみせよう。 それは同じ迷いと不安を抱えた2人だけが交わせる約束だった。 ブラウザバックでお戻り下さい。 |