御褒美は罠

任務が終わり、教団の本部から去ろうとしたときだった。
家路につこうとするネロを、クレドが止めた。
キツい仕事だった。早く戻って休みたかったネロは、呼び止めたクレドに
思わず非難がましい視線を向ける。
どうせまた、説教かなんかを言われるんだろうな、とウンザリして。

「お前の武器だ」

しかしそんな予想は外れ、クレドはやけにデカいケースをネロに渡して寄越した。
見た目を裏切らない重量のそれを、ネロは軽々と受け取って。

「お前は武器を乱雑に扱い過ぎる。これで何度目だ?」

今度こそ叱る口調で。クレドはネロに厳しい視線を送る。

「さあ。いちいち数えるほど、几帳面な性格じゃないんでね」
「5回だぞ、5回」

腕を組んで厳しい面持ちのクレドを横目に、ネロは受け取ったものを床に置いて、
蓋を開けた。いつものように慣れた手付きで部品を組み立てる。自分の左手に
収まったものを目の前に掲げた。教団の騎士に広く使われているものとは
デザインの異なるそれ。ネロがなにかを言う前に、クレドが口を開いた。

「特注品だ。大事に扱え」

それだけ言うと、彼は踵を返し、ネロは立ち去る背中に声をかける。

「お堅い教団にしちゃ気が利いてるな」
「・・期待に然う働きを怠らないことが、お前の仕事だ」

なるほど。
扱い難くとも、評価くらいはしてくれているらしい。
その御褒美がこれってワケか。
ネロは赤を基調とした「特注」の剣に視線を注いだ。
クレドは大事に扱えと言うが、ネロのために調整された剣なのだと
したら、その言葉に従う必要はないだろう。





そんなことがあってから4日後のこと。
ネロにまた、新たな任務が下された。
まあ、お決まりの悪魔退治だ。
いつものように悪魔達を片付ける予定が・・その通りにはいかなかった。
原因は、例の「特注の剣」

――ふざけんなよ

任務を終え、報告のため本部へ向かうネロの足音は苛立っていた。
擦れ違う教団員が、一様に不審な眼差しを寄越すのが、一層腹立たしい。
自分の取る態度が周囲との協調性を欠く原因になっていることは分かってる。
でも、今回ばかりは、自分にも真っ当な言い分がある。

ネロはクレドの執務室の扉を、乱暴に開けた。
案の定たしなめるような視線を向けられ、心外だと思った。

「珍しいな。お前がこれ程早く報告に来るとは」
「どういうことだ、クレド」

今にも掴みかからんばかりの勢いのネロに、クレドは神経質そうに片眉を上げた。
執務室にたまたま居合わせた団員の男が、嫌悪をあらわにネロを見る。
部下からの信望も篤いクレドに対するネロの敬意無い態度を、気に入らないと
感じていることは明らかだった。

「下がってくれて構わん」

クレドはその団員に向かって片手を上げる。
男が出ていったところで、ネロはクレドに向き直った。

「とんでもないものを寄越してくれたな」
「なんの話しだ?」
「とぼけるなよ。あんたが俺に渡した武器さ」
「なにか問題でもあったのか?」
「問題もなにも・・」

そこまで言いかけて、止めた。
クレドの返答が、本当になにも知らないふうだったからだ。

「敵とやりあってる最中、ぶっ壊れたときたもんだ」

クレドはなにかを考えるように、眉間に皺を寄せた。
彼の癖だ。

「そうか・・」
「俺の問題じゃない。武器の問題だ」

自分の扱いの悪さを指摘される前に、ネロは釘を差すことを忘れない。
クレドは意外なほど、あっさり頷いた。

「すぐに新しいのを発注する。・・開発部には言伝しておこう」
「・・・・」
「なんだ?」

半眼でクレドを見据え、押し黙ったネロに、疑問の声。

「話しが通じ過ぎやしないか?・・なにか引っかかる」

武器を壊す度に必ず苦言を訂していたクレド。
今まで前科がある分、もう少し追求されると思っていたのだ。
なのに、すぐ新しい武器を手配するって?
随分と寛大な処置すぎやしないか。

「少しばかり、心当たりがある」

途端、珍しくクレドが堅い表情を崩して、苦々しい顔つきをした。
しかしそれもすぐに引っ込んで、普段通りの、騎士団長の顔に戻る。

「心当たり?・・もったいぶった言い方だな」
「開発部には、変わり者も多くてな」

ネロはにやりと笑う。

「俺にとったら、あんただって相当の変わり者だ」
「中でも特に問題なのが1人いる」

生真面目なクレドに皮肉は通用せず、ネロはひとつ舌打ちして。

「なるほどね」

その変わり者が作ったモノが、例の特注品ってワケか。
評価されていると思ったのは、とんだ間違いだったらしい。

「今度はもっとマトモなものを寄越すように言っておこう」
「・・ちょっと待てよ。新たに手配するってのは・・・」
「今まで散々、手荒に扱ってきた罰だと思え」

つまり、実験台になれと?

「・・・モルモットになった気分だ」

うんざりして呟くと、クレドの眼差しがふいに和らいだ。

「随分、可愛げのないモルモットもいたものだな」

可愛げなんて、あってたまるか。

「こっちはテスト無しの本番だぜ?随分とトチ狂った研究だな!」
「確かにな・・。変わり者、というより、狂人と言った方が正しい男かもしれん」
「そいつの言うことに従ってるあんたはどうなんだ?」
「・・お前の実力を認めているからこそだ」
「へえ?」

そんな、褒辞とも取りかねない、彼にしたら随分と甘い言葉に、
思わずネロは嘲笑した。

「ぜんっぜん、うれしくないね」
「元を辿れば、散々開発部の世話になったお前に元凶がある」
「もっとマシなものさえ寄越してくれりゃ、こんなことにはならなかったさ」
「力だけでねじ伏せる戦いでは、いつか限界が来るぞ」
「そんなことは分かってる。あんたに言われなくってもな」

いつものごとく、説教モードに入りそうだとクレドの様子を察したネロは、
彼に背を向けた。もうこれ以上、聞く気はないって合図だ。
背後でクレドが溜め息をつく。

真面目で厳粛な彼にとって、自分はさぞ扱い難い部下だろう。
素直に従ってやる気なんて、ハナから無いからな。
でも、・・まあ。実験台くらいは引き受けてやるさ。
部下の行動は、騎士団の長を務めるクレドの責任ってことになる。
どうせそれをネタに、開発部の連中がうるさく言ってきているのだろうと
いうことくらいはネロにも予想ができた。
借りっぱなしってのも、性に合わないしな。





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