「でかくなったな、坊や」 また会えるか?と聞いた。 なにを思ってそんなことを言ったのか、今となっては少し後悔している。 久しぶりに会ったソイツは、相変わらずの調子外れで、親戚のおっさん みたいなことを口走って陽気に笑った。 赤いコートの男 「随分、街の雰囲気もかわったな」 赤いコート、銀髪、二丁拳銃。 大剣だけは、テーブルの横に立て掛けて。 ジョッキ片手に賑やかなバーの店内を見渡すダンテの前の席、 ネロはそこに座って腕を組んだ。 「どうしてあんたがここにいる?」 市街地で、派手な赤いコートを着た長身の男を見かけた。 見間違える筈もない。 別れ際に交わした、約束とは言うにはあまりにも一方的だったネロの言葉。 それは、案外早いカタチで叶えられてしまった。 ・・そう。しまった、としか言いようがない。 「俺なりに、色々と思うところもあってな」 ネロは片眉を上げてダンテを見た。 「スパーダの息子だから?」 「さて。どうだろうな」 ダンテはやや茶化すように応じる。 やっぱり・・いけ好かない奴だ。 「教団の方はどうなった?」 「解体したさ」 街は壊滅状態、大勢の犠牲も出た。その原因をもたらした教皇が死に、 生き残った数少ない教団の幹部達は、もちろんその立場を追われた。 魔剣騎士団も一時解体され、また新たに、民を守ることだけを目的とした 組織となって新しく設立された。 「信仰心の強い人間にしてみたら、それこそ一大事みたいだったけどな」 それでもスパーダがこの街の領主だった歴史に変わりはなく、 彼が悪魔でありながら同族を倒し、人々を救ったことは、今尚フォルトゥナに 暮らすに者達に感銘を与え続けている。 それは、教団として形あるものではないけれど、それぞれが胸のうちに 敬う気持ちさえあれば、それだけで信仰というのは成り立つものではないだろうか? ネロはにやりと笑って、ダンテを見た。 「いっそのこと、今度はあんたが教主にでもなってみたらどうだ?」 「・・おいおい、冗談が過ぎるぜ。そんなのになるくらいだったら、 まだ借金でヒイヒイ言ってる方がマシだね」 そう言うと、ダンテはジョッキに残っていたビールを飲み干した。 「夜も前から酒飲んで、挙げ句借金持ちの悪魔狩人なんかよりは、幾分かマシだろ?」 「なんだよ。お前も酒が飲みたいなら、素直に言えばいいものを」 「・・んなこと誰も言ってねぇよ」 「仕方ない。俺の奢りだ。感謝しろよ?」 「人の話し聞いてるか?あんた」 噛み合わない会話に苛々して、でも怒るのも馬鹿らしくてネロはうんざりと 溜め息をついた。 「なんだ、坊や。飲めないクチか?」 「・・そういう訳じゃない」 自分へ向けられるダンテの視線には、からかいの色が見える。 「酒なんて、どうでもいい」 「ははあ、なるほど。確かに、坊やにはまだ早いかもしれないな。 これは大人の楽しみってやつだ」 からかわれてるってことは、分かってる。 分かってるけど・・でも、ムカつくもんはムカつく。 「誰がガキだって?」 「違うのか?」 「・・そうじゃないってこと、証明してやるよ」 へえ?、とダンテが楽しそうに頷く。 「泣きっ面かいても知らないぜ?おっさん」 「そいつは怖いな」 好戦的な態度でぎろりと睨んできたネロに、ダンテは内心笑う。 こんなテに乗ってくるようじゃあ、まだまだガキから卒業はできないな。 最近、女性陣に振り回されてばかりいるダンテは、トリッシュやレディも 目の前の青年を見習って欲しいものだと思った。 捻くれているようで、実にまっすぐな奴だ。 視界がぼやけている。・・ついでに、頭もぼやけてる。 いつの間にか、テーブルに突っ伏していたらしい。 肘をついて上体を起こし、視界に入ってきたものを見て、ネロは一瞬固まった。 「お?目が覚めたか」 テーブルの上に並んだ沢山の空のグラスの向こうに、ダンテがいた。 ・・問題は、その手に持っているもの。ネロは、無意識に顔を顰める。 ダンテの右手に収まっているのは、どう見たって子供や女がよく好んで食べるあれだ。 「やっぱり、最後のシメはストロベリーサンデーに限る」 ストロベリーサンデー? 妙にかわいらしいピンク色のデザートを、いい年した大の大人が食べている姿は、 酒で歪んだ視界も相まって、まるで悪夢の中の出来事のように思えた。 さっきまで痛まなかった筈の頭が、ずきずきと痛みはじめたのは、 どう考えたって目の前の光景のせいだ。 「酔っ払って、ついに頭がイカれちまったか?」 正気の状態なら、そんなものを平気な顔して食べられる筈がない。 ネロはそう思って言ったのだが、ダンテは飲む前とまったく変わらない顔で スプーンを口に運んでいる。 「酔っ払って潰れてたのは坊やの方だぜ」 「なんなんだ、それ・・」 ピンク色のデザートを指差して。 ダンテは、至極自然に、ストロベリーサンデーなんて単語を口にした。 「・・頭が痛くなってきた」 「そいつは・・お気の毒だ」 ネロは額をおさえた。ダンテは、全然平気って顔してる。 どちらかが潰れるまでというルールではじめられた飲み比べは、幕が開ければ ダンテの圧勝に終わった。かなりの本数を開けたつもりだったが、それでもまだ ピンピンしている様子からすれば、奴にとってこれくらい、痛くも痒くもないのだろう。 ここまでくるともう、悔しいという気持ちすら湧かなくなってくるから不思議だ。 ・・・いや、その前に。"ストロベリーサンデー"の登場で、そんな気持ちも 逸れてしまったのかもしれない。 「・・負けたよ。あんたの勝ちだ」 ダンテが、おや、という顔をする。 「自分の負けを認めないほど、ガキじゃないつもりなんでね」 「なるほど。・・・そうだな、坊やってのは、止めようか」 「そうしてくれると助かるよ」 ネロはそれだけ言って、イスから立ち上がった。 飲み過ぎだ。足が、ふらつく。 「帰るのか?」 「あんたの馬鹿に付き合ったおかげで、もうこんな時間だ」 賑やかだった店内は、客の姿もまばらになっており、窓の外は真っ暗だった。 まだそれほど遅いと呼べる時間でもなかったが、フォルトゥナの夜は早い。それに。 「あんまり遅いと、キリエが心配する」 「ほんとにお前って、彼女に対してだけはやけに健気だな」 キリエは大切な人だ。 それを、なんだか面白がるような口調で言われるのは符に落ちない。 ネロは少しムッとしながらダンテを振り返る。 振り返った先で、やけに柔らかい眼差しを見つけて。 思わず言葉に詰まった。 「送っていってやるよ」 ダンテはテーブルに立て掛けていた剣を手にとった。 店主を呼んで、支払いを済ませる。 どうやら本気で自分を送るつもりらしい。ネロは呆れた。 「必要ない」 キッパリ断るが、ふらつく足元を指摘されて。 「襲われたらどうする?」 「・・街の中に悪魔はいない」 ごく当たり前のことを口にすると、ダンテは笑った。 「確かに悪魔はいないかもしれないが、変な気を起こす奴がいないとも限らない」 「はあ?」 わけが分からない。変な気ってなんだ? 「まあ、言うだろ。夜道を、可愛い子ひとりで歩かせるなってね」 「・・ばかにしてんのか」 どう考えても喧嘩を売っているとしか思えないダンテの言葉に、ネロは眦を釣り上げた。 「冗談だ、冗談。せっかくフォルトゥナくんだりまで来たんでね。 彼女にも、挨拶くらいさせてくれ」 「・・あんた、そんな律儀な奴だったか?」 ネロが鼻で笑うと、ダンテは心外そうに肩を竦めた。 いい加減そうに見えて、実はそうでないこと。 それは、先の事件で知ったダンテの印象だ。 軽薄そうな軽い言葉の奥に、きちんとした誠意を隠していることも知ってる。 ・・・でもムカつくことに、変わりはない。 ブラウザバックでお戻り下さい。 |