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傍にいること フォルトゥナの夜は、凍えるように寒い。 痛みを感じるほどの冷たい風に、思わず足早になって。 ネロはキリエの待つ家を目指した。 もう、寝ているかもしれない。 過ぎていく景色に、家々の灯火はない。それもその筈。 今は、完全に夜の帳の下りきった夜中で。 なぜこんな時間に外を出歩いているのかといえば、復興の手伝いでちょっとした トラブルが生じてしまったためだ。 ある民家に飾られていた石像に、悪魔が取り憑いていた。 その退治を引き受けたネロは問題の悪魔を倒し・・・そこまでは順調だった。 しかし、その後、民家に住む人間に帰るところを引き止められ、 礼にと食事やら酒やらを振る舞われてこんな時間になってしまったのだった。 人の厚意を、トラブルと言ってしまうのはあんまりかもしれない。 感謝の意をあらわしてくれることは素直に嬉しいと感じる。 けれど、正直なところ、ネロは早く家に帰りたいというのが本音で。 泊まっていけという申し出も断った。そういう場所は、自分には合わない。 人との関わりが疎ましい訳ではないけれど、1人が好きなのは生まれもった 性分なので今更変えられないのだ。 そして、なにより、家には自分の帰りを待ってくれてる人がいる。 予想したとおり、家の明かりは消えていた。 暗い廊下に、月の青白い明かりが差し込んでいる。 物音を立てないように気を付けて、ネロはそっと部屋の扉を開けた。 「・・?」 朝から手伝いに出掛けてしまっていたので、せめて寝顔くらいは見てから 眠りにつこうと思ったのだが、キリエが寝ている筈の彼女のベッドは 藻抜けの空だった。 家の明かりは付いていない。暗い中で起きているとは考え難い。 しかしベッドにいないということは・・・。 ネロはすぐに嫌な方向へ考え出す頭を持て余しながら、決して広いとは言えない 家の中を一通り見て回って、気配が無いことに不安を募らせながら、 最後に自室の扉を開けた。 「キリエ・・」 そこには自分のベッドの上で、気持ち良さそうに眠るキリエの姿があった。 ネロは、ほっと息をつく。 街の中にいれば安全だということは分かっているけれど、 一度、キリエを失ったネロにとって、 彼女はとてつもなく儚い存在に思えてならないのだ。 なにはともあれ、こうして無事な姿を見れてひと安心だ。 ネロは静かに近付いて、ベッドに手を付いた。 そこでようやく。どうして彼女が自分の部屋のベッドで眠っているのかという 疑問に突き当たって。付いた手を、咄嗟に離す。 ・・いや、だってさ。 どうなんだ、この状況? ネロがリビングのソファで寝ようかと考えていると、ベッドの上の膨らみが もぞもぞと動きだした。 「・・ネロ?」 眠た気に目を擦るキリエに、幼さが滲む。 「ごめん。起こした」 なんだかバツが悪くて、ネロは鼻の頭をかきながらそっぽを向いた。 キリエは首を横に振って、にこりと微笑んだ。 「お帰りなさい」 「・・ただいま」 それからキリエは不思議そうにあたりを見回して、あっと声を上げる。 「ここって・・・」 「俺の部屋」 「あ・・!うん、そうだった。私、すっかり寝入っちゃって」 ベッドから出ようとしたキリエを、ネロは止める。 「寝てろよ。構わないから」 「でも・・」 困り顔で呟いたキリエは、すぐになにかを閃かせて、ベッドの上を移動した。 片側に寄った彼女は、空いた方のスペースをぽんぽんと叩いて。 「もしよかったら、隣」 ネロはキリエの顔を見た。ちょっとだけ、頬が赤かった。 「・・いいのか?」 「だってここ、ネロのベッドよ。いいに決まってるじゃない」 それは・・そうだけど。 幼い頃に、2人で一緒に眠った記憶が蘇る。 でも、今。2人はあの頃のような子供ではなくて。 2人の間には、親愛と呼ぶにはもどかしく、愛情と呼ぶのはこそばゆい、そんな 感情が芽生えていた。 「なにもしないから」 「・・うん」 ネロは少し戸惑いつつも、それを表には出さないように気を付けた。 そしてぎこちない仕種で上掛けをめくると、キリエの手がごく自然にそれを止めた。 「このまま寝たら、皺になるわ」 その言葉に、ネロはなんだか拍子抜けして。 渋々とコートを脱ぎ、イスの背もたれ目掛けて放る。 彼女の方が年上なのだから仕方の無いことなのかもしれないが、 それでも、自分の子供をたしなめるふうなキリエに、ネロはもどかしさを 感じてならない。 「キリエはいちいちうるさいんだ」 「ネロが大雑把過ぎるのよ」 今度こそキリエの隣に寝転んで、シーツを顔から被った。 隣で、くすくすと笑う声。 なんだよ。 なにもしないも何も、全然そんな雰囲気じゃないぞこれじゃあ。 そのことに少しだけガッカリしながら、でも。小さい頃からちっとも 変わらない関係に、心が温まるのも感じて。 「・・あったかいな」 キリエの隣は、あたたかい。 「今日はいい天気だったから、お布団を干したの。きっとそのせいね」 そうしてネロの部屋まで布団を運び入れて、太陽の匂いに惹かれてそのまま 寝てしまったのだと。 「お日さまの匂いって、素敵」 ネロは目を瞑って、枕に頬を押し付けた。 夢の中でなら、言えるかもしれない。 『君の方が、ずっと素敵だ』ってね。 ブラウザバックでお戻り下さい。 |